【手植えで作る洋服ブラシ】寺沢ブラシ製作所

  • 2021年5月14日
  • 2021年7月7日
  • 職人

手植えで作るブラシの日用品

工業用ブラシを手がける寺沢ブラシ(東京都江東区)では、数年前から個人向けのブラシ作りをスタート。そのうちの一つ、洋服ブラシは衣類についたホコリや花粉を除去してくれるほか、繊維を整える効果もある。注文を受けてから作られる洋服ブラシの作業風景を見せてもらった。

洋服ブラシとは

 

衣類のホコリを除去し、繊維を整える洋服ブラシ

・ホコリや花粉などの除去
・繊維の流れを整える
・繊維に空気を取り入れることで型崩れを防止

洋服ブラシは豚や馬などの毛が使われるが、寺沢ブラシでは馬毛を使用。しなかやかでキメの細かい馬毛は、カシミヤやスーツ、着物用など繊細な衣類のほか、厚手のコートにも適している。動物の毛を使ったブラシは化学繊維を使っているものとは異なり、静電気が発生しにくいのが特徴。衣類に負担をかけることなく使用できると、愛用者も多い。

下準備:毛材の洗浄・整毛

 

手植えブラシ職人の寺澤一久さん
工房では黙々と作業に打ち込む寺澤一久さんの姿が

動物の毛を使うときには、商品に使用できる状態にするために下準備を行う。

「手間がかかるから、時間のある時を見計らって事前にやっておくんだよね」と一久さん。まずはその作業工程から見てみよう。

 

毛材は必要な長さに合わせてカット。馬の場合はしっぽとたてがみが材料になる。写真のように数の色が混ざっているものは通称“鼻馬気”と呼ばる
適量の束を作り洗浄、日干しをする※写真は黒の馬毛
洋服ブラシでは馬毛を使用
約15センチにカットされた洋服ブラシ用の馬毛

動物の毛の下準備は以下のとおり。すべて手作業で行われる。

(1)靴用や洋服用など用途に合わせた長さにカット
(2)適量の束を作り輪ゴムで止める
(3)ホコリや汚れを落とすために水洗いをして天日干し

(4)乾いた毛材の中からクセ毛や切れ毛などを除去

「同じ動物の毛でも太さと強度はそれぞれ。手入れをして、使えないものは除去していかないとね」と一久さん。

寺沢ブラシでは一久さんと奥さんの夫婦2人だけで作業するため、負担も大きい。それでも全工程を自分の目と手で確認していく。最良な商品を作るために、手間を惜しむことはない。

 

【工程1】植毛台に穴を開ける

 

穴を開けるボール盤で、植毛台に植え込み用の穴を開けていく
洋服用ブラシの植毛台
植毛台の上面が小さい穴になるよう、キリを使用

下準備が整ったら、いよいよブラシ製作へ。

まずは毛材の土台となる植毛台に穴を開ける作業。垂直に正確な穴を開けるボール盤を使って開けていく。毛材を抜けにくくするため、植毛台の上面に向かって穴のサイズが小さくなるよう、キリを使う。

穴の数や間隔、サイズは目的によって様々だ。毛材が異なる3種の靴用ブラシも作る寺沢ブラシでは、毛材の太さや強度に合わせて調整している。

「お客さんの中には、“毛量を少なくしたいから穴を小さくして作って”って言ってくる人もいるよ」と一久さん。買ってくれる人の希望に沿うものを作りたいとの想いで、細かなニーズにも対応している。

【工程2】毛材を植え込む

 

引き線を輪っかにして裏側の穴から通す
引き線を二つ折りにして植毛台の裏側の穴から表に通す
引き線に馬毛を通す
引き線に二つ折りにした馬毛を通す
引き線を引き、馬毛を植え込む

手植えブラシでは、植毛台の穴の一つひとつに毛材を植えていき、隣接する穴同士が引き線と呼ばれる糸(ナイロンやステンレス線など)で紡がれていく。

(1)二つ折りにした引き線を植毛台の裏側の穴から表に通す
(2)二つ折りにした馬毛を引き線に通す
(3)毛材と引き線を引き植毛台に植え込む

寺沢ブラシで使用する引き線は、企業からの依頼で他の素材を使用することはある場合を除き、すべてステンレス線を使用している。強度が強く耐久性に優れているが、太さによっては繊細に扱う必要がある。

 

手植えブラシの裏側
手植えの技法では、隣接する穴同士を引き線で繋いでいくため、毛材が抜けにくい構造になる

洋服ブラシで使うステンレス線の太さは0.3ミリ。

「毛が多すぎたり、強く引きすぎてしまうと切れることがあるんだよね。ほかの工房では切れないナイロンを使ってるところもあるみたい。でもうちは全部ステンレスでやってるよ」

一久さんは素早い手つきながらも、毛材が植毛台に差し込まれる寸前で、微妙に力加減を変えている。扱いにくい素材でも高い技術を駆使すれば、引き線が切れることはないのだ。0.3ミリという極細のステンレス線を使っていることに、職人としての誇りが伺える。

【工程3】引き線を隠す蓋付け

 

上部にかぶせる木材と本体が剥がれにくいよう、木工用ボンドを塗布
真鍮(しんちゅう)の釘を数か所に打っていく

すべての穴に馬毛を植毛し、引き線の凹凸を滑らかにしたら、上面に薄い板の蓋を取り付ける。木工用ボンドを塗り終えたら真鍮の釘を数か所打ち、本体と合体させる。

 

紐を通して保管できる穴を開ける

蓋をしたら、持ち手の下部に、紐を通してぶら下げて保管できる穴を開ける。

【工程4】木地に仕上げ加工を施す

 

本体と上面に取り付けた蓋の大きさを揃え、角などを滑らかにする
持ち手の部分など手触りが良くなるように仕上げる

木工研磨機を使って、本体とフタの大きさを揃え、持ち手や角などをに滑らかに仕上げていく。さらに、もうひと工程を経て仕上げとなるが、この工程は企業秘密。

【工程5】毛丈を揃える

 

毛先をカットする専用の刈り込み機を使って整える

刈り込み機にブラシをセットして、毛先を50ミリに揃えていく。

本来は刈り込み時に外側の毛がハネてしまうのを抑える工具を取り付けているが、毛先をカットしている状態をわかりやすくするため、工具を外した状態で撮影させてもらった。

 

クシを毛材に通して寝ている毛を起こす
寺沢ブラシの洋服ブラシの長さは50mm

途中クシを通して寝ている毛を起こし、再び刈り込み。これを繰り返しながら毛材の長さを均一に整えていく。

 

最後は手作業で毛先を整える
仕上がりを確認する一久さん

最後に毛先をハサミで整えて完成。

「使っているうちにどうしても毛先が出てくるものがある。その時は引っ張らないでハサミでカットしてほしいんだよね。引っ張ると毛量が減るし、他の毛も抜けやすくなるから」と一久さん。

毛材の洗浄、整毛、植え込み、木台加工などいくつもの段階を経て完成する手植えブラシ。手をかけて作られたものだからこそ、使い手も愛情を持って使えば、長く愛用できる一点物になるはずだ。

購入方法:寺沢ブラシのWEBサイトにアクセス

 

手植え 洋服ブラシ 白馬毛製
フタも植毛台も自然の朴木を使用

寺沢ブラシの洋服ブラシと靴ブラシの木台には、軽く収縮などによる歪みや変形が少ない朴木(ほおのき)を使用。自然のものだけに色や木目に個性がある。

「注文してくれるときにうちのロゴがいらないって言われれば、焼印なしのも作るよ」と欲の無さにも驚く。自分の作品であることを主張することなく、使う人が望むことに応えたいという実直さは、まっすぐに植えられたブラシのようだ。

洋服ブラシは寺沢ブラシ製作所のWEBサイトから購入可能。他にも靴用ブラシ、革製品用のスウェードブラシも掲載されているのでチェックしてみて。毛材の長さの調整や焼印に関する問い合わせはSNSのDM、または公式サイトの問い合わせメールで受け付けている。

手植えブラシオンラインショップ:https://brush224.thebase.in/
寺沢ブラシ製作所:https://www.terasawa-brush.com/
Instagram:@ terasawa.brush
Twitter:@teuenoburasi

Photographer / Jin Saito