『手植えならではのブラシを届けたい』東京手植えブラシ職人・寺澤一久氏

  • 2021年4月27日
  • 2021年7月2日
  • 職人

手植えで作るブラシの日用品

手植え専門の工業ブラシ工房として、東京都江東区亀戸で1964(昭和39)年に創業した寺沢ブラシ製作所。洗浄やサビ取り、研磨、整面など様々な用途に使用され、使う毛材も多岐にわたる。工業用と聞くと、生産効率の高い機械製が重宝されていると思いがちだが、実際はその逆。毛材を取り替えれば植毛台をリサイクルでき、なおかつ毛材の耐久性は機械製よりはるかに優れている。全国から注文を受ける二代目の寺澤一久氏は、高い技術を誇る手植えブラシ職人のひとりだ。

 

手植えブラシとは

 

土台となるパーツの穴にブラシ素材を植えていく

まずはブラシの構造から。
土台となる植毛台には複数の穴があり、この穴の一つ一つに毛材を植え込んでいく。工業用の場合は、パーツが金属や木製など様々。

機械植えでは、植毛台の穴ごとに毛材を固定していくが、手植えは毛材そのものと植え込む穴同士を“引き線”と呼ばれるステンレス線で繋いでいく。

 

ステンレス線を植毛台の裏から表に通し、毛材を二つ折りにしてステンレス線に引っ掛けていく
毛材とステンレス線を裏側に引き戻すことで植毛台に植え込んでいく
手植えブラシでは、穴同士を引き線でミシン縫いのように連続して植毛する

手植えでは、植毛された毛材同士が繋がり合っているため、抜けにくく耐久性に優れたブラシに仕上がる。また、植毛台が再生可能な限り、新たに台を作ることなく植え替えが可能。資源を無駄にすることのない“手植え”は、環境にも優しい技術の一つだ。

 

手植えブラシは明治時代から続く伝統技術

 

日本における手植えブラシの歴史は約150年

日本で手植えブラシが製造されるようになったのは明治7(1874)年ごろ。フランス製刷子を手本として製造され始め、製造に携わったのは従来の刷毛職人たちだったという。

明治21(1888)年には、百三十銀行頭取の松本重太郎により日本最初の刷子製造会社が設立され、ブラシ製造業は東京・大阪を中心に発展。産業界で機械化が進むに従い、大規模な機械によるブラシの大量生産が進んだ。一方、工業用ブラシ業者が多かった東京では、耐久性の高い手植えブラシが重宝され、その技術は途絶えることなく受け継がれてきた。

現在は残念なことに職人の数は減少傾向にあるが、工業用、家庭用問わず、大切な技術として多くの業界が求める伝統技術となっている。

引用:江戸の匠・伝統の逸品

https://craft.city.taito.lg.jp/craft/2034/

 

羽根骨も素材の一つ!様々な用途に対応するブラシ作り

 

工房には馬や豚、山羊のほか、ナイロンや植物繊維など多彩なブラシの素材が並ぶ
ステンレス製の素材で作った工業ブラシ

寺沢ブラシ製作所では、大手メーカーとは異なり、毛材の長さや素材など希望に合わせたブラシを作っている。

「対応可能な範囲で毛材の長さを調整しています。オーダーに応えられるように仕入れる種類も長さも様々。できる限り要望に応えたいですよね。それが手植えでやっている良さだから」と一久さん。

一久さんは伝統工芸の江戸切子を仕上げる“磨き”と呼ばれる工程で使用する木車ブラシも手がけており、「ほこりびと」の第一回目に紹介した江戸切子職人・矢部保氏の工房で使用する木車ブラシ(毛車は切子の業界でパキン車と呼ばれている)も作っていた。

「最近では薬品に漬けて仕上げる“酸磨き”が多くなってるけど、手磨きにこだわっている職人さんや工房では、うちのブラシを使ってもらっています」

伝統技術により作られた木車ブラシを使って、伝統工芸の江戸切子が磨き上げられる。その技術の賜物を現代で手にすることができるのは、とても貴重なものだと改めて実感した。

 

鳥の羽根骨がブラシの素材になるものも
鳥の羽根骨で作られたブラシ。長さを均一に揃えるのも職人技

おもしろいことに、製作している一久さん自身が用途を知らない企業秘密のブラシもあるとか。

「ほろほろ鳥っていう鳥の羽根骨で作るブラシもあるよ。どんなものに使われるのか想像もできないけど(笑)。昔から素材としてはあるんだけど、最近はこうゆうのを扱う業者さんも少なくなってきた。いつまで作れるかな」

羽根骨はそれぞれ太さや強度が異なるため、量と質を均一にしなければブラシとしての用途を果たすことができない。そのため、1本ずつ特徴を確認しながら植え込まなければならず、長さを均一に保つにも高度な技術が求められる。

納品前のブラシを拝見すると、均等に羽根骨が植め込まれ、長さは寸分狂わず均一の仕上がり。まさに圧巻のひと言だ。

 

素早い手つきで植え込みの作業をしていく一久さん

工房には、洗浄された金属製の植毛台が並んでいた。

「指定された素材と長さ通りに、黙々と作っていくブラシも多い。そうゆう商品の中には、植え替えで戻ってきた時、土台に油みたいな汚れがついていたりするんだよね。それを取るのに苦労することもあるけど、キレイに落としてから作業をして納品する、この繰り返しだね」

例え用途を知らなくとも、ブラシが役割を果たせるよう、隅々までキレイにして納品する。人の手で作業しているからこその気配りを、一久さんは当たり前のこととして行なっている。高度な技術に加え、こうした細やかな配慮が全国から注文を受け続けている秘訣なのだろう。

 

長く愛用できる家庭用・手植えブラシ

 

オリジナルの靴ブラシ。持ち手には亀戸を象徴する「亀」と工房の焼印が
靴ブラシとして使用される3種類(馬の毛・豚の毛・山羊の毛)はすべて同一価格

寺沢ブラシ製作所では、一久さんの代から家庭用ブラシも手がけている。「いろんな種類のものを作っていかないと食べていけないからね」というが、そこは職人。一久さんが作る靴用ブラシは、革靴専門店が注目するほどの逸品だ。

家庭用として作っているのは洋服ブラシと靴ブラシ。靴ブラシはおもに種類あり、ホコリを取り除く馬の毛、クリームなどを塗る豚の毛、そして仕上げ用の山羊の毛だ。多くのメーカーは毛材別に値段が異なるが、一久さんが作るブラシはすべて同じ、低価格の商品に値段を揃えている。

「確かに毛の種類によって金額が異なるけど、買う方のことを考えたら同じ金額がいいじゃない」と一久さんは笑う。

 

様々な靴用手植えブラシが揃う

一久さんが作る靴用ブラシには、握りやすいように木台の側面に溝が入っている。素材は朴木(ほおのき)で、軽く収縮などによる歪みや変形が少ないのが特徴だ。靴用に限らず、洋服用ブラシでも毛材の長さ調整が可能。

「納品に少し時間がかかることもあるけど、オーダーしてくれた方が望むものを作りたいよね」

ブラシを購入する際は、どんな服や靴に使いたいかを相談してみるのもいいかも。価格を抑えているため完全オーダーメイドというわけにはいかないが、作り置きをせず注文が入ってから仕上げてくれるので、目的に合わせたブラシを手にすることができるはずだ。

 

「こんなのほしい」に応えるモノづくり

 

柿渋で染めた植毛台。オーダーする際に希望を伝えれば対応してくれる
シックな印象の植毛台はマホガニー塗装を施したもの
ウォールナット塗装を施した植毛台。ぐっと大人な雰囲気に

木台を柿渋やマホガニー、ウォールナットなどで塗装するなど、新しい試みに挑戦している一久さん。 

「オーダーの際に塗装してほしいと言っていただければ対応しています。形も小判形と角形の2種類あるので好みのものを選んでいただけたら。前にね、靴ブラシの木台を少し大きくしてほしいって言われてことがあって作ったんだよ。その人は、親指と小指で挟むようにして使うんだって。小さいと手からブラシが抜けて飛んでいっちゃうっていうからさ(笑)」

“もう少し○○だったら使いやすいのにな”という声に応えて、最適なブラシを提供する。それが一久さんのスタイルだ。

 

寺沢ブラシ製作所の手植えブラシはWEB・SNSからアクセス

 

Instagram、またはTwitterのDMにて問い合わせを受付中

オリジナルの手植えブラシはHPにて販売。靴磨き用のブラシ8種類とスエードやヌバックの靴、皮革製品に使えるスエードブラシが3種、洋服用ブラシ1種が揃っている。

またInstagramとTwitterでは新作情報などを発信。
「娘たちに言われてInstagram始めたら、問い合わせを多くいただいて。SNSってすごいね(笑)」

問い合わせはSNSのダイレクトメールにて受け付けているので、購入前に確認しておきたいことなどがあれば、ぜひアクセスを!

寺沢ブラシ製作所:https://www.terasawa-brush.com/
手植えブラシオンラインショップhttps://brush224.thebase.in/
Instagram:@ terasawa.brush
Twitter:@teuenoburasi