江戸切子のぐい呑みやグラスに刻まれる代表的な伝統文様

古くから親しまれてきた文様に込められた願い

日本酒を嗜むぐい呑みやウイスキーを味わうロックグラスなど、江戸切子に刻まれているさまざまな文様。独自のデザインを追求している職人も多く、近年では職人の独創性も江戸切子の魅力のひとつとなっている。

ここでは、伝統的かつ代表的な文様をピックアップ。長年親しまれている文様には子孫繁栄などの想いが込められている縁起物も多いので、合わせてチェックしよう。

子孫繁栄を願う「魚子文」

 

魚子文(ななこもん)

江戸切子の中で最も代表的な文様の一つ。光の反射により魚の鱗のように輝く様子から名付けられたといわれており、和柄では鱗紋と呼ばれている。名前の通り魚の卵が並んでいるように映る姿から、魚子文に込められた願いは子孫繁栄。ちなみに、古くから愛されている代表的な文様である“ななこ”の名前から、江戸切子協同組合が7月5日を「江戸切子の日」と定めている。

凹凸がある魚子文の装飾は、切子グラスの持ち手部分に施されていると滑り止めのような役割も果たしてくれる。飲み口にあたる部分の装飾では、滑らかな舌触りも感じられる。

子供の健やかな成長を祈る「麻の葉文」

 

麻の葉文

正六角形を基調に六つのひし形を結び付けた幾何学模様。丈夫で成長が早く、まっすぐに伸びる麻にあやかり、子供の健やかな成長を願う柄として親しまれてきた。また、魔除けの意味がある三角形が集まってできているため、“強力な魔除け”“邪気を払う”という意味もある。

江戸時代には、女形歌舞伎役者の五代目・岩井半四郎が、この柄をあしらった衣装を舞台で披露したことから、庶民の間で大流行。以降、歌舞伎の舞台では町娘役に欠かせない着物の柄となっている。

また最近では、2020年に公開された映画でも話題になったアニメ『鬼滅の刃』(出版:集英社)の主人公・竈門炭治郎(かまど たんじろう)の妹、禰豆子(ねずこ)が着ている着物の柄にも登場。炭治郎の着物の柄、市松模様も江戸切子の文様にあり、同じ柄が途切れることなく続いていく様子から、発展や繁栄を意味するといわれている。

切子作品の麻の葉文は、カットの太さを調整するなど職人ごとにアレンジを効かせたデザインも多い。

伊勢神宮にも用いられている「六角籠目文」

 

六角籠目文(ろっかくかごめもん)

竹籠の編み目をモチーフにした伝統文様。連続文様から、麻の葉と同様に邪気を払うといわれているほか、伊勢神宮の皇大神宮(内宮)と豊受大神宮(外宮)を結ぶ道、“幸道路”の石灯籠に刻まれている六芒星(六本の線分が交差する図形)の形にも見えることから、縁起の良い文様として知られている。

江戸切子では側面を覆うように大胆に装飾されたものや、ほかの文様と組み合わせて表現されるなど、さまざまなデザインが見られる。ほかに、八角形の模様をした八角籠目もある。

長寿吉兆の縁起もの「亀甲紋」

 

亀甲文

神の使いとされている亀の甲羅を象ったもの。出雲大社(島根県)や厳島神社(広島県)の神紋にも使用されている縁起のよい文様で、着物などにも使われている。また「吉向(きっこう)」の読みと同じことから、“吉に向かう”という意味も。

切子では、表面を埋め尽くすように亀甲紋をデザインした作品が見られる。浅く削ったものや、深く削り凹凸を強調したものなど、職人技と個性が光る文様でもある。

人との縁に感謝する「七宝紋」

 

七宝紋(しっぽうもん)

同じ大きさの円を4つ重ねて繋いだ連続文様。その様子からご縁、円満、調和などの願いが込められている。また“七宝”は仏教で、「金・銀・水晶・瑠璃(るり)・瑪瑙(めのう)・珊瑚(さんご)・しゃこ」の7つの宝を指し、人と人との縁やつ繋がりは七宝と同等の価値があると考えられている。さらに、四方八方にご縁が広がるという願いも。

江戸切子では丸みを帯びた柔らかなフォルムが表現され、光の屈折によって七宝文がより輝きを増す。技術面では曲線を削る技と円の綱がりを正確に表現していくため、職人技が際立つ文様だ。

ほかにも江戸切子では、不老長寿を意味する菊の花が無数に連なる「菊繋ぎ文」、生命力の強さの象徴とされる「笹の葉文」などの装飾が施されている。結婚や生誕祝い、還暦祝いといったさまざまな節目に贈るアイテムとして、伝統的な文様が魅力の江戸切子を贈ってみては?